Release Date 2020.12.01

2.シルクの光沢感

 シルクの布地は、「光沢がありしなやかで風合いがよく、染め上がりが美しい」とよく言われますが、この光沢はどうやって生まれるのでしょうか。

 シルクの特徴の一つは糸や布などの製品の外観の美しさであり、真珠の輝きにも似たきめ細やかな優美な光沢です。この外観の美しさの源は繊維としての形状、色、内部構造によるところが大です。

やさしい光沢感はシルク繊維の形状と性質から生まれている

 まずシルクの形状については、長繊維で繊度が非常に細く(精練後のフィブロインフィラメントの径は約10ミクロン前後)、フィブロインフィラメントの横断面は不規則な三角形状をしています。表面の滑らかな長繊維の糸は紡績糸と比べれば非常に光沢に富み、細いフィラメントが密集した状態や表面の形が不規則にばらついている状態が光を細かく分散させるため、全体としてやさしい光沢感が得られることとなります。

 次に色についてですが、家蚕のフィブロインフィラメントは純白で半透明です。この光を通す性質(透明感)があることにより表面で反射された光と、内部を通過して屈折した光とが組み合わさることにより、よりやさしい光沢感が得られます。染色後においては、透明感のある深い色合いが得られることとなります。

繊維の微細構造に伴う複雑な反射や屈折による効果

 最後に内部構造についてですが、このフィブロインフィラメントの内部の複雑な微細構造により、真珠の輝きに似た優美な光沢が得られるのです。

 フィブロインフィラメントの内部は均質な状態ではなく、1本のフィブロイン(径は約10ミクロン前後)は約1,000本のさらに細いフィブリル(径は約0.2~0.4ミクロン)が束状に集まった構造をしており、さらにこのフィブリルも数10本の微細なミクロフィブリル(径は約0.04~0.06ミクロン)が束になった、とても複雑な微細構造をしています。(図.2)


 この微細構造のシルクに光が当たった時、屈折して内部に入った光は様々な深さの位置のフィブリルで反射したり、さらに屈折したり、侵入したりを繰り返し、多くの光が互いに干渉した結果の干渉色が生じます。この干渉色によって、真珠と同様の光沢がシルクにおいても得られているのです。(図.3)


真珠の多層構造と似ているシルク

 真珠は、炭酸カルシウムの結晶でできた0.3~0.5ミクロンの薄い層が、層数にして約60~100枚ほどが核の周りに積層し、およそ30ミクロンの厚さの真珠層を形成した構造を有しています。この薄くて多層の膜に光が当たった時の光の屈折・干渉の結果生まれる干渉色が真珠の光沢色なのです。そして、薄い炭酸カルシウム結晶の層の厚さが可視光の波長レベルに一致する場合には光沢感の良い美しい干渉色を生みだし、この厚さが可視光の波長よりもかなり厚いか薄い場合には光沢感の鈍い白色不透明な真珠となる、との報告もあります。(鉱物学雑誌、第15巻、第3号、1981.11、真珠の微細構造と色沢、和田浩爾)

 改めて驚かされるのは、シルクのフィブリルの径が0.2~0.4ミクロンと可視光の波長(可視光の波長は0.38~0.78ミクロン)レベルであることと、約1,000本のフィブリルが収束して1本のフィブロインを形成している微細構造を有している点が、真珠の多層構造と類似していて、まさに自然の神秘を感じざるを得ません。